就職がすべてではない専門性=介護福祉士・梅本聡[最終回]
第7回まで、資格や専門性が、いかに仕事をしていく上で役に立つかを話してきました。しかし、介護について学ぶことは決して、仕事のために役立つだけではありません。自身の生活を維持したり、周囲への心配りができたり、様々なタイミングで役立つと僕は考えています。今日は連載の最後に当たり、そのことをお伝えしたいと思います。

◆わが身に突然、降りかかる介護のために
厚生労働省の発表(2021/7/30)によると、2020年の日本人の平均寿命は、女性が87.74歳、男性が81.64歳となり、ともに過去最高を更新しました。世界で見ると、女性は第2位、男性は第3位で、日本は世界トップクラスの長寿大国です。
一方、最近注目されているのが、「健康寿命」。「健康上の問題で日常生活が制限される事なく生活できる期間」を示す指標です。平成28年の全国平均は、女性が74.79歳、男性が72.14歳でした。
平均寿命から健康寿命を引くと、「何らかの介助・介護等が必要な期間」が推測でき、女性は12.35年、男性は8.84年となります。

では、介護は誰が行っているのでしょうか。
厚生労働省が行った2019年国民生活基礎調査によると、主な介護者は要介護者と「同居(者)」が54.4%で最も多く、次いで「別居の家族等」が13.6%、事業者が12.1%となっています。
介護に携わる「同居(者)」の続柄をみると、割合が最も高いのが「配偶者」で23.8%、次いで「子」が20.7%、「子の配偶者」が7.5%です。
「子」と「子の配偶者」を合わせれば「配偶者」の割合を超えますし、「別居の家族等」も13.6%と「事業者」よりも高い割合を占めていますので、子世代にとって親の介護は、自らの生活における身近なテーマと言っていいでしょう。

そこで大切なのが「介護への備え」。「介護への予備知識」を獲得しておくことです。
育児は妊娠から出産までの間に、知識や情報を蓄えることができます。また、母親や出産経験のある友人などが身近にいることが多く、出産や育児については、必要な時にはアドバイスなどが受けやすいのではないでしょうか。
対して介護は、突然始まります。
予測に基づいた準備をすることが難しく、いつ起きるのか予測することが困難です。
高齢の親が元気に暮らす姿を見て「介護はまだ先のこと」と思っていても、脳卒中や骨折・転倒といった「予兆がない原因」によって始まることが多いのが「介護」です。だからこそ、その時に備えておく=介護の知識を蓄えておくことはとても大切です。
予備知識として、「介護保険制度」や「介護サービスの概要」をざっくりとでも把握しておくと、介護が必要になったときの手続きの仕方や、介護保険制度でどんなことが外部に頼めるかがわかります。また、介護に直面したときはどこに相談すればいいのか、その窓口を知ることもできるので、いざというときに慌てずに済みます。
ちなみに、お仕事をされている場合には、仕事と介護の両立のために、仕事を一定期間休むことのできる「介護休暇制度」や「介護休業制度」が国からの義務によって就業先に整備されていますので、事前に確認しておくことも予備知識になると思います。

◆精神的、肉体的負担を減らすために
家族の介護は期間が想定できず、長期間に及ぶこともあり得るので、介護する側、介護を受ける側、双方の負担を減らすことが必要です。特に介護する側は先が見えないため、精神的にも肉体的にも負担が募りやすく、介護技術を含めた介護の基礎知識をもつことが大切です。
正しい介護技術をもっていると、肉体的負担の軽減につながります。
最近のプロの介護現場では、ボディメカニクスという「人間本来の体の動きや力学などを活用した技術」を活用した「持ち上げない・抱え上げない介護技術」が普及しています。このような技術をもっていることで、自分の体を守りながら介助することができ、腰痛の予防にもつながります。
また、要介護状態にある親と向き合うためにも介護の基礎知識は必要です。ついつい要介護状態になる前の親と比較して、「こんなこともできないの」「こんなこともわからないの」とイライラを募らせてしまいます。ですが、介護のことや認知症についての知識が多少でもあれば、「これは仕方がない」と、いい意味で割り切ることができ、現状を肯定できるようになります。大切なことは、「まあいいか」で受けとめること。実は、それには介護の基礎知識が必要なのです。
介護の資格を取得することイコール介護の仕事をすること・・・と、思う必要はありません。
「介護に関する基礎知識を勉強したい」
そのために、介護の入門的な知識を学ぶ「入門的研修」をはじめ、入門的で基礎的な資格につながる「介護職員初任者研修」を受講・修了することは、とても意味のあることだと僕は思います。
でも・・・。介護業界の一員である梅本の本音としては、皆さんが介護の仕事を始めて、その魅力ややりがいを感じてくれたら嬉しいですけどね(笑)。
もしも、気が向いたら、ぜひ、介護の仕事に少しだけ目を向けてみてください。
以上で、「介護福祉士梅ちゃんの介護のおしごと入門」は終了となります。
拙い文章を全8回にわたりお読みいただき、本当にありがとうございました。
また、どこかでお会いしましょう。

介護福祉士、梅本 聡(うめもと さとし)
介護コンサルティング、研修会講師などを行う株式会社「キューシップ」代表。一般社団法人「千葉市認知症介護指導者の会」会長。1974年生まれ。身体障害者施設、特別養護老人ホームに介護職、生活相談員として勤務。認知症グループホームではホーム長を務め、入居者が掃除・洗濯・炊事などの日常生活行為から「自分でできることは自分で頑張る」を基本とした自立型支援を実践してきた。「日中は施錠しない」「転ぶことがあるからと行動を抑制しない」を信条としている。著書に「認知症ケアの突破口」(中央法規出版)、みんなの介護で「介護の教科書:介護×認知症」を連載中。