資格取得のメリットは?=介護福祉士・梅本聡[7]
資格を取得することには、どんなメリットがあるでしょうか。賃金アップはもちろん、待遇改善のきっかけになることは連載の第1回と第2回で触れました。いずれも重要な要素ですが、それだけではないと思います。

◆働くときの安心感
連載の第6回で無資格でも介護(訪問介護を除く)の仕事に就くことができるとお伝えしましたが、実際に無資格で働いている人はどのくらいいるのでしょうか。介護労働安定センターが行った介護労働実態調査(令和元年度)によると、現在介護職員として働いている人(調査人数9,475人)のうち、無資格の人は8.6%。表は、実際に働いている人が持っている資格で、何らかの資格を持っていたり、研修を終えていたりする人が多いことがわかります。

資格を取得することは介護に関する一定の知識や技術を学ぶ機会になり、未経験で介護の仕事をはじめる人にとっての安心感につながります。だから、何らかの資格を取得してから働き始める人が多いのだと思います。
また、介護サービスを利用する方々の心身の状態はさまざまですが、介護職が、より上位の資格を取得して知識や技術が上がっていくと、わかることやできることが増えて、仕事がやりやすくなっていきます。
◆広がる選択肢
資格を取得することで就職先や就業できる仕事の選択肢が増えるというメリットもあります。イラストは、厚生労働省の作成した資料です。
イラストから分かる通り、訪問介護員として働く場合は、介護職員初任者研修以上の資格が必要です。また、訪問介護事業所には訪問介護員のリーダー的役割を担う「サービス提供責任者(通称「サ責」)」がいますが、実務者研修を修了しているか、介護福祉士の資格がなければサ責になることはできません。

◆ケアマネジャーと生活相談員
介護の現場には、身体介護などに携わる介護職のほか、利用者さんのケアプラン(サービス計画書)を作成する「介護支援専門員(ケアマネジャー)」や、利用者のさんやご家族の相談に携わる「生活相談員」という職種もあります。
ケアマネジャーは、ケアプランの作成のほか、介護が必要な方が適切な介護サービスを受けられるように利用者本人やその家族の相談に乗り、介護保険事業者との調整を行います。
ちなみに介護労働安定センターの調査では、ケアマネジャーの資格取得を目指す介護職は41.0%に上ります。
そのケアマネジャーの勤務先は大きく分けて3つあります。
一つ目は、「居宅介護支援事業所」。自宅などで生活する要介護の方のケアプランを作成します。
二つ目が、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの「入居型施設」で、施設入居者さんのケアプランを作成します。
そして三つ目が「その他」で、通い・宿泊・訪問サービスが一体化している「小規模多機能型居宅介護」や、自治体などが設置し、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活が続けられるようにサポートを行う「地域包括支援センター」があります。
このようにケアマネジャーの資格があると、働く場の選択肢が広がりますし、勤務時間も平日に日勤で働くことが一般的なので、より働きやすくなるのではないでしょうか。
そんなケアマネジャーの資格を取得するには、試験に合格する必要があり、受験するためには、介護福祉士をはじめ、介護・医療・看護等に関連した何らかの国家資格が必要です。
◆他職種への理解と信頼
介護サービスの利用者さんやご家族の相談に携わる「生活相談員」も人気の仕事です。
都道府県によっては、介護福祉士の資格があれば通所介護事業所(デイサービス)や介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)で生活相談員として働くことができます。
生活相談員は相談業務のほか、他施設や病院との調整や手続き、所属する介護施設と利用者さん、ご家族、地域との橋渡し役を担っています。
ただし、生活相談員に必要な資格は各自治体で違います。介護福祉士の資格だけでは生活相談員に就けない場合もありますので注意してください。
このように、資格を取得することで仕事の選択肢が広がり、そのことで直接介護以外の介護の仕事を知ることにもつながるので、他者や他職種への理解と信頼を深めることにも役立つでしょう。
◆介護のプロとして
自己PRの材料になることも、資格取得のメリットの一つです。資格は、介護の知識や技術を持っていることを証明でき、上位資格になるほど、信頼も増します。就職・転職・復職が有利に働く武器の1つになるはずです。
もちろん、介護の仕事は資格がすべてではありません。ですが、就職・転職・復職時の交渉などに資格を使い、少しでも良い条件で働ける職場を見つけてください。ボランティアではなく、プロとして介護の仕事に携わり、生活の糧を得ているのですから。

介護福祉士、梅本 聡(うめもと さとし)
介護コンサルティング、研修会講師などを行う株式会社「キューシップ」代表。一般社団法人「千葉市認知症介護指導者の会」会長。1974年生まれ。身体障害者施設、特別養護老人ホームに介護職、生活相談員として勤務。認知症グループホームではホーム長を務め、入居者が掃除・洗濯・炊事などの日常生活行為から「自分でできることは自分で頑張る」を基本とした自立型支援を実践してきた。「日中は施錠しない」「転ぶことがあるからと行動を抑制しない」を信条としている。著書に「認知症ケアの突破口」(中央法規出版)、みんなの介護で「介護の教科書:介護×認知症」を連載中。