介護職の給料は安いのか?= 介護福祉士・梅本聡[1]

2021/09/17

約243万人。この数字は、団塊の世代が75歳以上となる2025年度に必要とされる介護職員の人数です。
数字だけ見てもピンと来ないでしょうが、多くの方は「日本は高齢化が進んでいて、これから介護が必要な人が増えていくから、今よりも介護職が必要になるんだろうなあ」と思っているのではないでしょうか。
その認識は正しく、2019年度の介護職員数は約211万人でしたから、2025年度までに介護職員を約32万人増やさなければいけない計算です。
厚生労働省はこの推計値を2021年7月9日に公表し、毎年5.3万人介護職員を増やしていく必要があることを示しました。

介護施設で利用者の顔の手入れをする介護職。気持ちが明るくなると、生活に張りが出る(イメージ写真)

そんな近い将来に予測されている介護人材の不足ですが、この不足は、「給与が安いから」あるいは「仕事がきついから」、介護を仕事として選ぶ人が少ないことが原因にあるのでしょうか。数字を見ると、少し違う風景が見えてきます。介護保険制度が開始された2000年度の介護職員数は約55万人。その後、介護職員の数は毎年増え続け、2019年度までの17年間で156万人増えています。約3.8倍もの増加です。

また、2016年経済センサス‐活動調査(総務省・経済産業省)によると、産業別の従業者数は、卸売業・小売業が約1180万人と最も多く、次いで製造業が約886万人、それに続くのが医療・福祉で、従業者数は約734万人です(そのうち「老人福祉・介護事業」が約228万人を占めており、医療・福祉で最大値)。

ちなみに、医療・福祉の従業者数は2012年の同調査から19.4%増加。主な産業の多くが従業者を減らしている中、増加率はトップです。国勢調査の結果からは、この15年間で最も働く人が増えた仕事は介護だということもわかります。

「なのにどうして、人手不足が続いているのか?」と疑問だと思いますが、介護は、需要(介護が必要な方の人数・増え方)に対して、供給(介護を提供する人材の人数・確保)が追いついていないのです。一般に、「介護の人手不足の原因はこれだ!!」と真っ先に言われる理由は、「給料が安い」です。確かに、調査・統計では、その通りで、背景には勤続年数の短さなどがあると言われています。しかし、ここ数年で急上昇しているのも事実です。

2020年2月19日に開催された全世代型社会保障検討会議の資料によると、2018年時点で介護職員の賞与込み給与(月)は28.3万円、対して全産業平均(役職者抜き)は37.0万円ですから、この時点で8.7万円の差があります。

ただ、2014年から2018年までの5年間を見てみると、介護職員と全産業平均の給与額の差は縮まってきています。全産業平均は5年間で1.3万円増になっており、介護職員はその倍に当たる2.6万円増になっています。

この改善の要因は、国が進めてきた介護人材の処遇改善施策にあるといえます。

というのも国は、「介護職員の待遇を改善する事業者」には介護報酬を上乗せする「介護職員処遇改善加算」を設ける(2012年から)などして、介護人材の処遇改善を進めているからです。

実際、この加算を取得している事業所の介護職員の平均給与額(月給)を、2019年と2020年で比較すると、1年間で1万8120円増えて32万5550円。また、勤続10年以上の介護福祉士では、1年間で2万740円増えて36万6900円になっています(令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果より)。

国が働き手の処遇改善に力を入れる職業は、保育士と介護職だけではないでしょうか。そして、介護は今後、さらなる処遇改善が期待される職業でもあるのです。

介護福祉士、梅本 聡(うめもと さとし)

介護コンサルティング、研修会講師などを行う株式会社「キューシップ」代表。一般社団法人「千葉市認知症介護指導者の会」会長。1974年生まれ。身体障害者施設、特別養護老人ホームに介護職、生活相談員として勤務。認知症グループホームではホーム長を務め、入居者が掃除・洗濯・炊事などの日常生活行為から「自分でできることは自分で頑張る」を基本とした自立型支援を実践してきた。「日中は施錠しない」「転ぶことがあるからと行動を抑制しない」を信条としている。著書に「認知症ケアの突破口」(中央法規出版)、みんなの介護で「介護の教科書:介護×認知症」を連載中。

フォローすると、定期的に
\ケアするWebマガジン『ゆうゆうLife』の更新情報が届きます。/

Facebookページをフォロー
Share
LINE