「カメラは手放さない」=91歳のアマチュア写真家 西本喜美子さん
ユーモアあふれる自撮り作品が世界で注目を集める91歳のアマチュア写真家、西本喜美子さん。元気の源は、趣味の写真と、写真を通じて知り合った多くの年下の友人たちだ。いつも絶えない笑顔に、周囲から「かわいい」と愛される西本さんは、「どうしたら面白い写真を撮れるか、考える毎日が楽しい。たくさんの友達に囲まれ、私は幸せ者」と目を細める。

■一人暮らしのスタジオ
熊本市内の住宅街。エレベーター付きの2階建て一軒家に、西本さんは一人で暮らす。「寂しいと感じることはあまりない。塾の友達が全国から遊びに来てくれるし、いつでもメールで話ができる」
「塾」というのは、西本さんの長男でアートディレクターの西本和民さんが市内や全国7都市で主宰する写真教室のこと。西本さんは72歳のとき、和民さんの教え子に誘われて通い始め、写真に目覚めた。時代がフィルムカメラからデジタルカメラに変わってからは、パソコンの画像処理ソフトも学び、使いこなす。
セルフポートレート作品が有名な西本さんだが、実は花や小物などを光の加減で幻想的に写し出すテーブルフォトが作品の中心。自宅の一室に設けた撮影スタジオで、気の向くままに創作活動に没頭する。

■「環境づくりが大切」
西本さんは、父親の仕事の関係でブラジルで生まれた。8歳で帰国し、戦争を経験。美容院経営や競輪選手を経て27歳で結婚。84歳で夫を亡くした。
写真を始めてからの西本さんについて、和民さんは「笑顔が多くなった。写真を撮るには頭を使う。どうやって撮ったのだろうと思わせる作品も少なくない。たくさん考えるようになったことが、いい影響を与えている」。西本さんも「何事もやってみなければ分からない。写真を撮るのも楽しいし、何より友達が増えたのがうれしい」と語る。
和民さんは同居をあえて避け、車で20分ほどの場所に住む。「一緒に住めば、母は私に気を使うし、ストレスにもなる。年を取っても元気でいてもらうには、自由な時間を持ち、問題が起これば自分で考え、どうにか解決していく環境づくりを家族がすることが大切だ」と和民さん。

■周りからもらう幸せ
以前は作品づくりのために外出することも多かった西本さんだが、腰を痛めてからはほとんど機会がなくなった。それでも、写真教室や、リハビリがてらデイサービスに通うなど忙しい毎日を過ごす。大好きなたばこや酒も、元気の源かもしれない。
最近は、耳が聞こえにくくなったと感じることもあり、写真教室の定席を新入生用の最前列に変えた。「先生(和民さん)の話が聞こえやすいように」だ。
「年は取りたくない。でも、周りから幸せを頂いているので、『まだまだ頑張ろう』という気持ちになれる。いずれ寝たきりになるかもしれないが、天井くらいは撮れる。だから、何歳になってもカメラは絶対に手放さないの」。西本さんは、ほほ笑んだ。
