リフトで変わる介護の現場=介護職の腰痛解消・入居者の安心
介護の仕事は体力勝負、といわれる。だが、力自慢が求められるわけではない。たとえばベッドから車椅子への移動や入浴時のサポートに電動介護リフトを導入すれば、介護する側にもされる側にも余裕が生まれる。体力差や技術レベルをならすことができる。道具一つでも現場は変わる。介護の意識も変わっていきそうだ。

■格段にリフトがいい
千葉県浦安市の介護付き有料老人ホーム「グッドタイムリビング新浦安」で暮らす多良(たら)慶輝さん(88)は、介護リフトを毎日利用する。パーキンソン症候群と診断されて約6年前に入居。3年前に胸髄損傷により、自力で歩けなくなった。体操などの活動や食事のために4階の自室から1階へ行き来するので、毎日5、6回はベッドと車椅子の移乗が必要になる。
スタッフが移動式のリフトを押して部屋を訪ねてくる。スリングシートと呼ばれるつり具を体の下に敷き、スイッチを入れると音もなく体が浮く。ハンモックのように空中を移動して車椅子に座る。スタッフと多良さんはその間、体の具合などをあれこれ話している。
移乗には、正面から抱えたり、シートに乗せて何人かで動かす方法などがある。多良さんによると、以前に入院していた病院では、看護師が3人がかりでしてくれたという。「動きを合わせるのが難しいし、大変そう。格段にリフトがいい」
大和証券グループのグッドタイムリビング新浦安には76の居室があり、2~4階の各フロアに床走行式リフトを常備。4階の浴室にも天井走行式リフトを導入している。平成23年以降は、同社の全施設に介護リフトが導入されている。

■リフトなし考えられない
約11年間勤務する介護スタッフの名古屋守さん(35)は、リフト導入による変化も経験した。「導入前は、体格の大きな男性を移乗すると、やはり腰に負担がきた。勢いをつけて動かすと、ケガにつながるリスクもあった。もう、リフトなしは考えられないですね」
同社の広報担当、都築千弓さん(27)によると、導入の契機はスタッフの腰痛解消。「スタッフが腰痛を抱える状態は、企業として対策が必要」。労務の課題だったが、導入したら、いろいろな発見があったという。「実は、抱きかかえの姿勢はお互いの顔が見えない。でも、リフトでの移乗なら表情を見ながらできるので、ゲスト(入居者)の身体的、心理的負担も減るんです」。高齢者は抱きかかえられると緊張で体がこわばることもあるが、リフトなら姿勢が安定してリラックスするのだという。入居者にも良い効果があるのだ。
サービスの均一化の点でも、人材を大切にする点でも有用性は高そうだが、介護リフトの普及は進んでいない。公益財団法人「介護労働安定センター」の「平成30年度介護労働実態調査」によると、入所型施設での導入率は10・9%。「介護は人の手で」「ぬくもりを大切に」という意識が導入の障害になっているというが、現場には、入居者も介護職も大切にする「ぬくもり」があった。