看取り介護=人生をこんな間近に見られるなんて
介護は、人の「生き死に」に寄り添う仕事だ。日々の暮らしを支えるその先には、看取りに伴走する〝大仕事〟もある。「人の人生を、こんなに間近に見られる仕事はない」というベテラン介護職に話を聞いた。
横浜市の社会福祉法人「伸(しん)こう福祉会」の河野(かわの)真紀さん(47)は24歳で法人に就職し、特別養護老人ホーム(特養)やグループホーム、介護付き有料ホームなどで介護に携わってきた。
人と話すことが好きで、ホテルや病院でも働いた。だが、病院では患者に深く関われず、〝蚊帳の外〟にいるようだった。患者から「家に帰りたい」と訴えられることも。「当人が、ここなら最期の場所でもいいかな、と思える場所で働きたかった」と言う。

■初めまして
この20年、特養やグループホームで働く中で、さまざまな人生を間近に見た。
怒ってばかりの90代女性がいた。「ありがとう」の代わりの言葉は、「ありがとやまのコンコンチキ!」。その女性が衰弱し、家族に「最期の服」を頼んだら、日本舞踊の衣装のような和服が持ち込まれた。
「鮮やかな青い着物でした。それを着た姿を見て、『初めまして』と思いました。こういう人だったんだ、と」
きつい言葉は、気っぷの良さの裏返し。してもらうより、してあげるタイプの人だったんだろう。
「お尻を洗われたりするのは、きっと、悔しかったんでしょうね」
■人生の繋がり
〝怖い〟利用者もいた。認知症のグループホームに住んでいた80代のトヨさん=仮名=は生涯、独身だった。人に触られるのが嫌いで、入浴の手伝いも、着替えの手伝いもさせてくれなかった。
ある朝、出勤したら、亡くなっていた。いつもの時間に起きてこないので、見に行ったスタッフが見つけたのだ。
診断を待ち、ベテランの先輩が「入るな」と言われていた部屋に入り、「触るな」と言われていたが身仕舞いをさせながら、こう言っていた。「ごめんね、ごめんね、トヨさん。触られるのいやだよね。怒んないでね」
それが、河野さんにはとても自然に見えた。その人らしさは死に際しても変わらない。「最期まで人に触らせず、逝く瞬間も見せず、自分でタイミングを選んだみたいだった」。以来、何より、当人に心地よい介護を優先している。
人と人の深い繋がりにも驚く。トヨさんの死後、どこで知ったのか、職場で部下だったという男性がやってきて言った。「すごくお世話になったんです。ぼくが墓を見ます」
「すごいなと思いました。子供がいなくても、誰かを育ててきた人生だったんだと思いました」(河野さん)
■人生を完成させる
平成27年度の厚生労働省の調査では、特養の8割近くが、「希望があれば、施設内で看取る」方針。特養には看護師も常駐するが、日々に寄り添うのは圧倒的に介護職だ。
横浜市の女性(71)は今年1月、94歳の認知症の母親を、伸こう福祉会の特養で看取った。寝ついたのは3日ほど。女性が母親に付き添っていると、顔なじみの介護職がのぞきに来たり、思い出話を聞いてくれたりした。女性は言う。「人生を全うした母に、『お母さん、完成やね』って言ったんです。本当にすがすがしい、いい体験をさせてもらいました」