警察官から介護職へ = 高齢者の〝正義の味方〟に
介護の仕事を、セカンドキャリアで選択する人も少なくない。介護の上級職である「介護福祉士」の資格を持つ熊川学さん(56)は、警察官から転身した異色の経歴の持ち主だ。
「生きがいと言うと偉そうですが、仕事が楽しい。高齢の方と触れあうのが好きなんです。笑顔をもっと見たくて」
熊川さんは4年前に千葉県警を早期退職。現在は介護付き有料老人ホーム「クラーチ・ファミリア船橋」(千葉県)で介護に携わり、サブリーダーとしてスタッフをまとめている。
笑顔を絶やさず、丁寧な姿勢を崩さない熊川さんに入居者の信頼は厚い。80代の女性入居者は「『熊さん』って呼ぶと、ぱっと来てくれる。笑顔のお顔しか見たことがないのよ」と顔をほころばせる。

■徘徊(はいかい)事件を担当
子供の頃から「正義の味方」に憧れていた。高校卒業後、千葉県警に採用され、白バイ隊員や機動隊員として活躍した。
福祉への興味が高まったのは、警察署の地域課に勤務し、高齢者の徘徊事件を担当したのがきっかけ。「高齢の方は、思ったよりも遠くまで歩いていってしまう。隣の市まで行ってしまう人もいれば、冬場などは亡くなってしまう人もいた。早く見つけることが大切なんです」と振り返る。
「高齢者の気持ちが理解できたら、捜索の端緒になるのでは」と考え、40歳のときに夏休みを利用し、ホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)を取得した。その過程で、施設で出合った介護職が強く印象に残った。「オムツ交換やトイレ誘導などに笑顔で対応していたんです。立派な仕事だと思いました」。退職後のキャリアを考えていた熊川さん。「次は、高齢者の味方になろう」。そう決意した。

■自宅の近くで
「新しく仕事を覚えるなら、早い方がいい」と、定年を待たずにセカンドキャリアをスタートさせた。見つけた勤務先は、自宅から原付きバイクで15分ほど。「何かあっても、すぐ駆けつけられる。通勤も楽になった。家の近くで探せてよかった」
仕事を始めた当初は、入居者の体のどこに触れ、どう支えるのか戸惑いもあった。痛みのある側の手に触れて、怒られてしまったことも。それでも、「辛いと思ったことは1度もありません。入居者はいい人ばかり。気難しい人もいるが、警察時代に比べたら悪い人なんていないですから」と笑う。
今では、認知症の人がふらりと出ていこうとするのを見る目もずいぶん変わった。世の中では「徘徊」と言われるが、「本人は目的もなく歩いているわけではない。それぞれに意味や事情があって、外に出て歩いていると思うようになった」と話す。要望を推測したり、じっくりと話を聞いたり、本人の納得を優先するよう対応も変わった。今年は「介護福祉士」の資格も取得した。これからもずっと現場で働くつもりだ。介護の仕事を極められたら、と思っている。