長いブランク、杞憂だった=段階を踏み介護職に
介護施設には、身体介護だけではなく、清掃や調理などさまざまな仕事がある。こうした〝周辺〟の仕事を経験して介護職になったある女性は、「長らく仕事に就いておらず、私には介護の仕事は無理だと思っていた」と振り返る。今、生き生きと働く姿に不安はない。

■「歩いて5分」が決め手
横浜市泉区の高台に介護付き有料老人ホーム「SOMPOケア ラヴィーレ弥生台」がある。吹き抜けやラウンジのある広々とした空間で、入居者が思い思いに昼下がりを過ごす。テレビを見る入居者に目を配りながら食後のお茶を配る尾関昌子さん(54)は、ここで働き始めて10年以上になる。
「中学生だった長女と小学生だった長男の教育資金の足しにしたいと、家から近い場所で仕事を探したのがきっかけです」
この施設が、歩いて5分の場所にできたとき、1日4時間だけの求人があった。部屋を掃除したり、シーツを交換したりする「クリーンスタッフ」だ。子供が下校する午後には家にいたい。それがかなう月20日ほどの勤務は、求めていた条件にぴったりだった。

■徐々に時間を増やし
長女を出産する際、メーカーを退職して専業主婦になった。働くのは十数年ぶりだったが、初めて知った介護の現場は思いの外、楽しかった。「入居者さんはちょっとしたことでも、『ありがとう』と言ってくれる。仲間は優しく、気持ちのいい人たちばかり。恵まれました」
下の子供が中学生になるのを機に、クリーンスタッフの仕事を、洗濯の仕事に変えた。こちらは1日7時間、週3日の勤務。時間は延びたが、きついとは思わなかった。逆に週4日の休みが退屈になるほど。夫の扶養から外れ、働けるだけ働きたいと望む尾関さんを、家族も全面的にバックアップしてくれた。
仕事のブランクが長く、当初は「介護の仕事は私には無理」だと思っていた。見知らぬ人を相手に、したことのない介護をするのが不安だった。だが、あるとき、上司に「してみたい」と打ち明けた。「入居者の顔や名前、性格などが分かって、入りやすくなったんだと思います」と振り返る。

■「ありがとう」にやりがい
介護の基礎的な資格である「初任者研修」を取得。入居者の体に触れる「身体介護」にも携わるようになった。当初は、食事介助で入居者がむせると不安になり、ベッド上での排泄(はいせつ)ケアにも時間がかかった。それでも、入居者から「ありがとう」と言われると、この仕事をしてよかったと思う。
思えば、夫から「働いたら」と勧められても、仕事のブランクの長い自分にできる仕事はないと決めつけていた。自分で可能性を狭めていたように思う。
年を取れば無理は効かなくなるから、疲れたときは無理をしない。がんじがらめになると辛くなるから、家事の手を抜く。
「段階を踏んだから、介護の仕事ができると思えた。いきなり『介護職の募集』だったら、応募していなかったかもしれません」