心惹かれる人たちとともに~しょうぶ学園
ケアの手法は相手によってさまざまで、アプローチも量も異なる。多すぎず、少なすぎず、その人がその人らしくいられるように。利用者との日々の会話に癒されながら、現場は支え方に試行錯誤を続けている。
◆「ずれていていい」
大きく育った木々が、色濃く影を落とす敷地内は、空気さえ少し冷んやりと感じられる。
鹿児島市の社会福祉法人「太陽会」が運営する障害者支援センター「しょうぶ学園」には、しゃれたレストランやパン工房、アート工房などが点在する。

統括施設長の福森伸さん(62)はこの日、学園のホールで障害のある利用者らによる楽団「otto(オット)」の指揮をとっていた。音楽の始まりをこう表現した。
「はい、ロバが歩き始めます。ポトン、ポトンとうんこする感じ」
打楽器、弦楽器、ハーモニカ、太鼓などで繰り広げられる音楽はにぎやかで、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」を思わせる。自由な振り付けで踊るダンサーもいて、熱気にあふれている。
福森さんは、「人間はありのままでいいはず。ずれていてもいいし、ずれていなくてもいい。そう思いつつ、人に見せるとなると、音楽も『あるべき姿』にとらわれる。永遠のテーマだね」と言う。

◆オリジナルな良さ
しょうぶ学園の利用者は現在、知的障害などがある2歳から87歳の約200人。多様なサービスがあり、入所施設で暮らしながら日中はアート工房に通う人や、外部から通ってきてパン工房で働く人も。発達障害のある未就学の子どももいれば、放課後を過ごす児童もいる。
アートの種類は多様で、敷地内には刺しゅうなどを行う布工房、はがきや手描きTシャツなどを作る和紙・造形の工房、木工や陶芸の工房などが点在する。

どのアートに携わるかは本人次第。粘土の自動車を何台も作る男性もいれば、丹念に布に花びらを描く女性など、こだわりは百人百様。その作品をトートバッグにするのか、レターセットにするのか、製品化を考えるのはスタッフの仕事だ。

製品化は共同作業だから、最近は作品に創作者とスタッフの名前を並べることも。スタッフには固定観念を捨てて、個々の独創性を活かす力も求められる。

◆何気ない会話に癒される
設立から約50年が経過し、利用者の高齢化が顕著だ。最近は身体介護の必要な人も増えてきた。
生活支援員の宗像恭子さん(43)は、「ベッド上の介護も増えている。介護研修を取り入れて、高齢化への環境を整えている」という。

宗像さんは芸大を卒業してインテリア会社に勤務した後、帰郷を機に就職した。「利用者さんの生活や人生に関わる中で、やり取りに癒やされる。例えば、普段は反発の強い人から『気をつけて帰ってね』と声をかけられると、明日も頑張ろうと思える」という。
アパレルから転身した生活支援員、酒匂美智代さん(51)も「何気ない会話に感動したり、癒やされたりする」と口をそろえる。

敷地内のレストランに食事にきて、ギャラリーでアートを見て感動して就職した。「ここにいる人たちに心惹かれる。年齢とともに疾患も出てくるので、この人たちの役に立てたらと思う」

◆ありのままで
しょうぶ学園が大切にしているのは、素のままの相手を尊重すること。作品づくりも、「左右均等に削って」とか、「縫い目はまっすぐ」とか言っても、うまくいかない。

だが、不均等も味わいだと思えば、新しい価値が生まれる。相手を否定せず、無理に修正せず、ありのままを受け入れられれば、お互いに生きやすい社会を作れるに違いない。

福森さんは、「健常者が既存の障害観から逃れられず、あるべき姿を求めると、障害のある人はもっと生きにくくなる。彼ら自身が困っているから支援するんだけれど、その人らしさを阻害せず、最低限必要なことに手を貸せるといい」と話している。