昭和の横丁と介護DX=入所者にも介護職にも快適な暮らし

2022/07/08

宮崎県都城市の特別養護老人ホーム「ほほえみの園」には、昭和の横丁と近未来の介護が共存する。入所者の安心感を追求しながら、生産年齢人口が減少する2040年に向け、介護DX(デジタルトランスフォーメーション)に全力を挙げている。

昭和の横丁には駄菓子屋も床屋もある

◆ロボットが配ぜん

ホールに再現されているのは昭和初期の横丁。
昔ながらの電柱の下に雑貨屋や駄菓子屋が並び、この地域の高齢者には馴染みだった「庭の鶏小屋」まである。さすがに鶏はいないが、スイッチを入れると、鶏小屋の音がする。高齢の入所者が子供時代を思い起こせるように、だ。

電柱は、職員が日曜大工で作ったという

その一方で、最新鋭の機器も活用する。夕食時に厨房から居室へ進むのは、ネコ型配ぜんロボット「ベラちゃん」。行く手に障害物があればストップし、「通してほしいにゃ」と主張する。道を譲ると「今、料理を運んでるにゃ」と通り過ぎて行く。その様子がかわいいと人気で、入所者が声をかけるという。

配ぜんをするロボット

2022年に約7千500万人の生産年齢人口が、2040年には6千万人を割ると見込まれる。高齢者の数に応じて介護職を増やしていくのは困難で、より少ない人手で現場を運営するために、介護現場のDX化は喫緊の課題だ。

◆妊娠、出産、職場復帰

入所型施設には珍しく、ほほえみの園のスタッフは私服で介護にあたる。

施設長の吉村陽子さんは、「スタッフにはおしゃれをしてね、と言っています。ご高齢の方たちも気持ちが上がり、自分もおしゃれをしたいと思って元気になる。ここは生活の場。生活の場では、普通は制服を着ませんよね」という。

介護職の鶴田美穂さん(24)はニットベストにガウチョパンツ。介護の仕事に就いたのは、中学時代の経験がきっかけだ。障害のある人を家まで送り、「ありがとう」と言われたのが忘れられなかった。

鶴田美穂さんは1歳の男の子のママでもある。耳にはインカム。この一瞬だけマスクを外してもらった

ただ、就職したら「ありがとう」と言われるばかりではなかった。入所者から、「別のスタッフを呼んで」と言われたこともある。

1人1人に合う声かけを心がけ、繰り返すうちに頼ってもらえるようになった。「今は気難しかった入所者さんの一番のお気に入りです」と、吉村施設長が口を添える。

鶴田さんは1歳の男の子のママでもある。妊娠中も普通に仕事をして職場復帰した。「ここには介護用リフトがあるから、妊娠中も負担になりませんでした」と言う。

介護用リフトは、ほほえみの園が使う介護機器の一つ。施設内の各ユニットに介護リフトや介護用入浴機器などを標準装備し、介護職が入居者を抱え上げたり持ち上げたりせずに、ベッドから椅子への移乗や、入浴介助をできるようにしている。

◆本当に望まれるもの

運営する社会福祉法人「スマイリング・パーク」理事長の山田一久さんはコンピューター関係の会社員などを経て、介護の仕事に入った。

大人になってから、障害のある同級生が「みんなが遠足で山に登っていたとき、一緒に登りたかった」と言うのを聞いた。子供時代、彼の見ていた風景に少しも気付いていなかったことに衝撃を受け、改めて同級生を担いで山に登った。

山田理事長は今、何よりも介護の必要な人の心の内を考える。「入りたくて施設に入る人はいない」と思う。施設入所を望むのは、本人より家族であることも多い。では、どうすれば施設が自宅に代わりうるか。

家族が孫を連れて面会に来てくれるよう、中庭に滑り台を置き、施設内に児童書のコーナーを設けた。昭和の横丁では孫に駄菓子を買い与えることもできる。

「施設でなければ暮らせない人もいる。在宅では受けられなかった愛情も提供できる。覚悟をもってやっています」

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