子供を連れて、働く場へ=佐賀・唐津の看多機「MUKU」
子育てしながら働きたいー。だが、預け先やその費用を考えると、二の足を踏むケースも。そんなときは、子連れで働く選択肢もありそうだ。佐賀県の事業所では、子供が介護の必要な高齢者と同じ空間で過ごす。母親たちも生き生きと働いている。

■子供も高齢者も同じ空間
バタバタと走る子供の足音が無垢材の床に響く。昼食を食べていた高齢者が、隣で泣き出した子供を膝に乗せてあやす。佐賀県唐津市の看護小規模多機能型「MUKU」では、利用者とスタッフの子供たちが同じ空間で過ごす。「介護は暮らし。暮らしの1つに介護がある」という代表の佐伯美智子さんの理念からだ。看護小規模多機能型は「家で最期まで」を実現する介護サービス。登録した地域の高齢者が通ったり、泊まったり、訪問看護や介護を受けたりする。
みいちゃん(美渚萌ちゃん)(4)は、3年前のオープン時から「MUKU」の子供だ。母の山口由香さん(39)は当時、保育園に預けて働くか悩んでいた。
高校生の長女、中学生の次女に教育費がかかる。介護職の友人から仕事の話を聞いても、「私には無理」と思っていた。「介護は絶対にしない仕事だと思っていた」と苦笑する。
そんなとき、開設間近のMUKUが介護職を募集していると知った。子連れ出勤を歓迎し、資格も不要だという。最初は利用者も少なく、徐々に仕事に慣れることができる。「面接に来たら受かっちゃった。イチから学べてラッキーでした」と振り返る。

■子連れボランティアも
子連れで働くのは職員だけではない。MUKUでは0~3歳児の親を対象に、有償ボランティアも募集する。週1、2回子連れで来て、利用者と食事をしたり、見守りをしたり。山口さんは「子供を連れて行けるなら働きたいが、それができないと悩む母親は多い。でも、介護の経験は親をみるときも役立つと思う」と、太鼓判を押す。
ボランティアを経て職員になったのが、看護師の田嶋ひとみさん(32)だ。結婚で移り住んだ土地で家にこもり、テレビの音しか聞こえない暮らし。「長女を育てながら、生まれたばかりの次女を世話する日々。誰かと一緒にご飯を食べたかった」。子育て支援センターでボランティア募集の張り紙を見て、「ボランティア経験が自分の自信につながれば」と応募した。
元は病院ナースだから、仕事には慣れているつもりだった。だが、「(患者が退院して)家に帰った後の生活や家族との関係まで考える必要がある」と気づいた。約半年後、正規職員に誘われた。「私を評価してくれる人がいるんだ、とうれしかった」という。

■わが子の成長見守り
子供が急に発熱すれば休まざるを得ない。その分は誰かがカバーするが、人が休みやすい職場は、自分も休みやすい。職場には「休んでくれてありがとう」の雰囲気が漂う。
子供は、足の不自由なお年寄りに「どうして歩けないの?」と素直に疑問をぶつける。スタッフは「赤ちゃんがお箸が使えないのと同じ。できないことを手伝ってあげてね」と伝える。加齢に伴う障害を当たり前に受け入れる、わが子の成長を見守れるのも、この職場の魅力だ。
「その人らしく」の方針は、子供にもお年寄りにも働く人にも心地良い。
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