「介護はクリエイティブな仕事」
介護が必要になると、生活の中にできないことが増えてくる。だが、日々の暮らしに少しの助けと、果たすべき「役割」があれば、穏やかに暮らしていけるのでは。そんな介護を実践する事業所に、やりがいや夢を求めて介護職が集まってくる。
◆切り干し大根と干し柿と
埼玉県蓮田市の介護事業所「和が家のくらしとシゴトバデイ うるひら」は、要介護の高齢者が日中を過ごすデイサービス(デイ)事業所だ。
落ち葉が積もった雑木林に隣接するテラスには、干し柿とダイコンがつるされていた。いずれデイの食卓に上るはずだ。
介護福祉士で生活相談員の照井益美さん(46)は、「私自身は干し柿も切り干し大根も作ったことがない。皆さんから教わりながら、毎日のオモシロイを大事に、当たり前のことをしています」と笑う。
「当たり前」を指導するのは、家事の経験豊富なデイの利用者ら。認知症や要介護の人のなかには、家族に「危ないから」と包丁を持つことを止められてしまう人もいる。だが、料理が得意な人はデイのキッチンに立ち、手順をスタッフや仲間に教えることで自尊心が満たされる。
一般的なデイには予定表がある。お迎え、水分補給、体操、入浴、昼食、休憩、レクリエーション、送りなどで1日が過ぎる。

◆問われるのは瞬発力
しかし、うるひらにはスケジュールがない。「今日、何をするか決めていないんです。今、気持ちいいことをしようというのがモットー」と照井さん。
だから、介護職が瞬発力で利用者の気持ちを汲み、要望に対応できるかどうかが問われる。その日の天気や、参加した一人一人の特技や趣味を活用できれば、本人も周りも楽しい。
同じくうるひらで働く介護福祉士の中村良子さん(45)も、それがやりがいだという。「ここのスタッフは利用者の気持ちを大切にして、危ないことがあってもクリアしようと考える人が多い。でも、世の中には、自分の提供したい介護をできていない人も多いと思う」と言う。
日々の活動だけではない。認知症の人の気分転換を図ったり、淋しさやもどかしさを受け止めたり、利用者と介護職の数だけ対応方法がある。
登山で名をはせた男性(76)は庭での火おこしが得意技。この日は、みんなで焚火に当たって焼き芋を作った。その後はリビングに戻ってキムチ作り。
中村さんは「キムチを作るのは初めて」と男性の脇に立つ。元気なころより作業に時間はかかっても、人は得意なことをしていると生き生きとする。
◆ママたちの柔軟性が頼り
うるひらの主力介護職は30代、40代のママさんたち。責任者の直井誠さんはその特性を、「相手の変化に気付いて柔軟に対応する人間力がある。すごく、いい人材」と絶賛する。
要介護の1人1人を理解すれば、相手によって声掛けやアプローチが変わってくる。それが「はまる」と、怒りっぽかった認知症の人が穏やかになって笑顔を見せる。直井さんは「介護はすごいクリエイティブで難易度の高い仕事だと思う」と言う。

◆お買い物デイも
直井さんは、同市の駅前では「ショッピングリハビリ」と称して、スーパーマーケットの2階で小規模デイサービス「ひかりサロン蓮田」を運営している。
このデイのセールスポイントは、スーパーマーケットでの買い物。要介護の高齢者らが、介護職に付き添われてカートを押す。歩くのが得意でない人もエレベーターでスーパーに降り、カートを押しながら歩けば転倒せずに済む。この日、参加した女性(76)はカートにイチゴ、ホウレンソウ、食パンなどを入れた。
介護が必要になって買い物がおっくうになると、生活の質は途端に落ちる。1人暮らしなら尚更だ。
直井さんは「デイの支援で家で暮らせる日々をできる限り伸ばしたい。介護の仕事は人の一生に最後まで付き合う尊い仕事です」と話している。