シングルマザー、介護職になる

2019/09/11

介護の仕事に携わる人のなかには、小さな子供を抱えて離婚し、「どう暮らしていけばいいのだろう」と思いつつ、仕事についた女性が少なくない。その選択の背景と現在を聞いた。

みんなで食べるおやつは楽しい=小田原市の「潤生園みんなの家たじま」

■速さよりも大切なこと

「今日のおやつは、あんみつですよ」
午後3時、神奈川県小田原市の「潤生園みんなの家 たじま」で、介護職の鈴木綾さん(31)が柔らかな笑顔で利用者に話しかけた。何度も聞き返す相手にも、初めて話すかのように自然体だ。
私生活では2年前、4歳の男の子を抱えて離婚した。生活のあてはなかったが、2人で暮らす糧を得なければならなかった。

心のどこかに介護の仕事があった。中学時代、老人ホームでボランティアをしたとき、相手が笑顔になってくれたのが忘れられなかった。低賃金や腰痛を心配する母親からは、事務職を勧められた。だが、パソコンの前に終日座る自分を想像できなかった。「やってみて、合わなければ考え直せばいい」と踏み切った。

介護は、人が好きでないとできない仕事だ。接客経験のある人は多く、鈴木さんもホテルなどで働いたことがある。だが、違いをこう話す。「大抵の接客は正確さとスピードを求められる。でも、介護は、相手がどういう人で、どういう思いで話しているかが大切。早ければいいわけではない。スピードをこなすのが得意でない私には、介護の仕事は合っていた」。1人1人と関係性や信頼を深めていけるのも、他の接客とは違っていた。

働いてみたら、身体の負担はほぼなかった。鈴木さんが働くのは「小規模多機能型」と呼ばれる事業所。登録した地域の人が通ってきたり、泊まっていったり、訪問介護を受けたりする。自宅で長く暮らすためのサービスだから寝たきりにならないようにするし、その分、抱えて移す動作が少ないせいかもしれない。

平日に働き、日曜に研修を受けて、介護職の最初の一歩になる「初任者研修」を修了。来年、「実務者研修」を経て、再来年には上級職にあたる「介護福祉士」を受ける予定だ=イラスト。「順々に資格を取って、私自身も成長しながら、人の役に立てるようになりたい」

社会福祉士と介護福祉士の資格を取り、相談員としてスタートした秋山恭子さん=神奈川県小田原市の「小田原市地域包括支援センターさくらい」

■資格の階段を上る

小田原市の秋山恭子さん(41)は今春、「介護福祉士」と、相談支援の専門職である「社会福祉士」の資格を同時に取得。住民の相談や、総合支援が必要なケースに携わる「地域包括支援センターさくらい」で働き始めた。

5年前に離婚するまでは、子供も小さかったし、働く必要もなかった。だが、収入を得なければならなくなり、年齢を経ても続けられる仕事を、と思った。介護を考えたのは、父親がALS(筋萎縮性側索硬化症)になった経験からだ。家中が病気一辺倒になるなかで、病院に勤める社会福祉士が、世の中との〝窓口〟になって生活を考えてくれた。

通信教育の受講を開始し、現場での経験を得ようと、平成27年に潤生園のデイサービス(通所介護)で働き始めた。そのかたわら、初任者研修と実務者研修を修了し、介護福祉士と社会福祉士を取った。「資格が取れて認めてもらえた気がするし、今は専門職として誇りを持てる」と言う。介護に携わって3年強で資格の階段を駆け上がった格好だ。

相談業務ではスタートラインに立ったばかりだ。「相手の立場に立った相談援助ができるよう、話しやすい人でいたい。安心して暮らせる方法を一緒に考えていきたい。私も、話を聞いてもらって今がある」

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