今、できることを~皆が「当事者」のwithコロナ時代~<1>
はじめまして。フリーアナウンサーの町亞聖です。
突然、母の介護に直面したのは、私がまだ高校生の時でした。
家族介護の「当事者」になったことで、私の人生はそれまで想像していたものとは大きく違うものになりました。このコラムでは、母の介護経験から得た気づきや、介護に向き合う方々のさまざまな取り組みをご紹介していきますが、一人でも多くの方々が介護に触れ、考えるきっかけになればと思っています。

緊急事態宣言、ロックダウン、ニューノーマル…新型コロナウイルスの感染拡大は、大げさではなく全世界の約77億人の全てを「当事者」にしました。ままならない暮らしが今なお続いていますが、全員が当事者である“今”だからこそできることがあると思っています。介護は誰もが直面する可能性のある問題でありながら、普段から「自分事」として考える人は多くないのが現実です。新型コロナが暮らしを一変させたように、介護もまた家族の人生をも巻き込んでいきます。全ての人が困難に直面する今、介護も他人事としないなど、私たち自身の意識を変えるチャンスだと思います。
◆SOSさえも出せなかったヤングケアラーの私・・・
母がくも膜下出血で倒れて重度障害者になったのは1990年のこと。まだ介護保険制度はありませんでしたが、制度だけでなく、周囲の環境も、人々の意識もバリアだらけ。母は車いす生活になりましたが、障害を持つ当事者と家族にとっては厳しい時代でした。
「ヤングケアラー」という言葉を最近になって耳にするようになりましたが、まさに18歳で母の介護に直面した私もその1人でした。ヤングケアラーとは、家族の介護を担う18歳未満の子供を指し、家族の誰かに介護が必要になったとき、それができる大人がいない場合、ケアの責任を引き受け、家事などもこなさなければなりません。

埼玉県が県内の高校2年生を対象に行った調査では、なんと25人に1人がヤングケアラーであることが明らかになりました。単純計算で、1クラスに1人は何らかの形で介護を担っている生徒がいるということになります。
「自分がやるしかない」「相談できる相手がいない」…。この調査では、そんな切実な声も浮き彫りになりましたが、30年前の私も全く同じ状況でした。母の介護に家事、弟妹の母親代わりをせざるを得なくなったものの、学校の先生にも同級生にも相談できない。介護は家族がして当然の時代でしたから、周囲に「助けて」とSOSを発信する方法さえも分かりませんでした。
◆自分の力では抜け出せない貧困のスパイラルの中に・・・
一方、父は「サラリーマンは性に合わない」とずっと個人事業主(当時は非正規雇用という言い方はしませんでした)という形で、お弁当の配達を生業にしていました。
わが家が貧乏であることは幼い頃から何となく分かっていましたが、母の長期入院で父の給料は全て医療費に消え、本当にギリギリの生活になりました。
住んでいた家の大家さんがとても良い方で、家賃を何か月も待ってくれたので追い出されずに済みましたが、もし、あの時に住まいを失っていたら、今の私は存在していなかったかもしれません。

母の病で介護だけでなく自分の力では抜け出せない貧困や格差の問題にも直面した私。ごく普通の青春を送る同級生たちがうらやましく、「なんで私だけが…」と全てを投げ出したくなったこともあります。
そんな私を踏みとどまらせてくれたのは弟と妹の存在でした。弟は中学3年、妹はまだ小学6年。2人を見捨てることは長女としてできなかったのです。父のことは別の機会にまたお話しできればと思いますが、酒飲みでまったく頼りにならなかったので2人を任せるわけにいきません。多くのヤングケアラーと同様に「自分がやるしかない」と覚悟を決めました。
「母の病気を理由に人生を諦めたくない」
「どんな家庭環境でも自分で人生を切り開くことができる」
弟と妹にそう思ってもらいたかったですし、誰よりもそれを強く願っていたのは私自身だったからです。
【次回に続きます】
≪プロフィール≫
まち・あせい 埼玉県出身。小学生の頃からアナウンサーに憧れ1995年に日本テレビにアナウンサーとして入社。その後、報道局に異動し、報道キャスター、厚生労働省担当記者としてがん医療、医療事故、難病などの医療・介護問題などを取材。また北京パラリンピックでは水泳メダリストの成田真由美選手を密着取材。“生涯現役アナウンサー”でいるために2011年にフリーに転身。脳障害のため車椅子の生活を送っていた母と過ごした10年の日々をまとめた著書「十年介護」を小学館文庫から出版。医療と介護を生涯のテーマに取材、啓発活動を続ける。(公式ブログ→http://ameblo.jp/machi-asei/)
≪出演番組≫
☆文化放送 毎週土曜あさ5時35分~5時50分
「みんなにエール!~障害者スポーツ応援番組~」
☆ニッポン放送 毎週日曜あさ6時25分~6時55分★HPで視聴可能
「ウィークエンドケアタイム「ひだまりハウス~うつ病・認知症を語ろう~」