身近なこととして胸に止めて考えていきたい
女優で映画監督の黒木瞳さんをメインゲストに迎え、介護と介護の仕事について考えるオンライントークイベント「黒木瞳さんと学ぶ介護のおしごと」が今月、介護情報サイト「ゆうゆうLife」で配信された。介護職の女性たちと接した黒木さんは「(介護を)身近なこととして、胸にとめて考えていきたい」と語った。

◆介護職「葛藤を胸に秘めた強い人たち」
介護職の女性からやりがいや苦労を聞き、「強い方々だと感じた。強い中にもいろいろな葛藤があるのだろうなと思った」という黒木さん。芸能生活40周年の今年は、監督として長編2作目となる映画「十二単衣を着た悪魔」(公開中)で、源氏物語きっての「悪役」である弘徽殿女御(こきでんのにょうご)に光を当てた。原典には主人公・光源氏とその母を執拗に排除しようとする敵として登場する女御だが、同作では自身の思いは胸に秘め、常に強く品格を失わない女性として描かれる。介護職の女性たちの印象は、そんなヒロインとどこか通じるものがあったのかもしれない。
女優で映画監督。華やかなイメージだが「日々の仕事は地味。でも作品を見た方に『ありがとう』『元気をもらった』と言ってもらえる。皆の笑顔が見たいという気持ちや、チームワークが大切なことは介護の仕事と一緒です」と語る。
◆母と過ごした最期の日々
自身に介護経験はないが、福岡で暮らす最愛の母がくも膜下出血で倒れた夜は、専門の医師がいる病院に電話をし続け、翌朝には福岡に向かった。「母はずっと持病のあった父の介護をしていました。その父を亡くした喪失感もあったかもしれません」。一度は「もう助からない」と言われた母は、黒木さんをはじめ家族の努力で手術を受け、一命を取りとめた。
それからは仕事の合間を縫っては福岡に向かい、母と話をし、手を握った。「楽しい話をたくさんして、母の温かい手を握るのが好きでした。亡くなるまでの半年間は、神様がくれた贈り物のような時間でした」と振り返る。
◆他人に頼るのはとても難しい
母を亡くした年や当時の母の年齢は記憶にないという。「私はある意味では(母の死を受け入れられない)子供なのかもしれません。ただ、両親は『死』というものの本当の意味を教えてくれました」。
こうした経験からも「困難なとき、他人に頼るのは実はとても難しいこと」だと実感している。「でも介護職の方たちに『頼っていい』と教えてもらった。私もいつか、介護をする、あるいはされるほうになる。もっと学ばなければと思っています」。
【プロフィール】
くろき・ひとみ 1981年、宝塚歌劇団に入団し、のちに娘役トップとして活躍。85年に退団後は、映画やテレビドラマ、舞台などで幅広く活躍。映画「失楽園」(1997年公開)で、第21回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、「破線のマリス」(2000年公開)で、 第10回日本映画評論家大賞女優賞受賞。近年は、女優だけでなく映画監督としても活躍。「嫌な女」(2016年公開)に続く、長編2作目となる監督作「十二単衣を着た悪魔」が公開中。福岡県出身。