〝日本一かっこいい〟介護職、杉本浩司さん 「実は高齢者が苦手でした」
ファッションモデルの経験があり、「日本一かっこいい」介護職とも呼ばれる介護福祉士の杉本浩司さん(42)。長年、介護職の魅力発信に取り組んできた。もともと「お年寄りが苦手」だった杉本さんが、介護の仕事に魅力を感じた背景には何があったのだろうか。
「体調を整えることがゴールじゃないからね。ご本人が、今まで出せなかった思いを出せるようになって、そこからだよ」
介護付き有料老人ホームやグループホームなどを運営する「メディカル・ケア・サービス」の認知症戦略副室長の杉本さんが、グループホームの職員らに熱心に語りかけた。この日は現場指導だったが、年70回以上の講演もこなす引っ張りだこの介護職だ。
もともとはモデル志望で「高齢者が苦手」。土日に働けば、平日にオーディションに行けるという考えもあり、介護の専門学校に入学した。そんな〝後向き〟な選択に終止符を打ったのが介護施設での現場実習だった。

■百人百様の人生
実習先の特別養護老人ホーム(特養)は照明が暗く、まるで閉鎖病棟のようだった。だが、毎日入所者と顔を合わせると、個々の人柄に触れる。「よう、兄ちゃん」と声をかけてくれる人もいれば、一介の実習生に丁寧にお礼を言ってくれる人も。
笑ったり、怒ったり、感謝されたり。「100人いたら100人の人生がある。校長先生もいれば、やくざみたいなことをしていた人もいる。いろんな人生を見られる面白さを感じた」と振り返る。
介護の魅力にはまって、社会福祉法人に就職。特養でキャリアをスタートさせると、モデルはやめて介護の仕事に専念した。

■寝かせきりにしない
介護への気持ちがさらに変化したのは、訪問介護で出会った90代の女性がきっかけだ。「あなたのおかげで長生きができたわ」と言ってくれた。「おむつを交換して、ちょっと話をして笑ってもらっただけ。それなのに、お礼を言ってくれたんです」
女性の生活は少しも改善していない。だからこそ、寝たきりの状態や、認知症による問題行動を少しでも改善できたら、と思った。自立を支援する介護を学んで「高齢者が表に出せずにいる思いを引き出してかなえたい」と、勤務後などに社会人大学院に通った。
10年ほど前からは講演依頼も受け、介護の魅力を発信している。介護職に「きつい、汚い、給料が安い」のイメージがつきまとうのは、介護を受ける高齢者が魅力ある生活を送れていないからでは、と思う。かつて特養で見たように、高齢者自身が生きがいや楽しみもなく、閉じ籠もるように暮らしていたら、介護の魅力も生まれない。
そう思い、これまでに勤務したデイサービスでは、認知症の人と積極的に公園へ散歩に出かけた。「介護が必要でもハッピーに暮らせる。それが分かれば介護職の魅力も伝わると思う」
■機能回復の先に
ただ、機能回復がゴールではない。「体と心の調子を整えると、どう生き、どう死んでいきたいかを表に出せるようになる。その希望をかなえるまでが自立支援の介護」だという。
特養やグループホームなどさまざまな施設で入所者の願いを聞いた。1泊の温泉旅行やお墓参り、孫の結婚式参列なども実現してきた。中には、寝たきりや重度の認知症だった人もいたという。
「僕ら介護福祉士が諦めなければ、ほとんどの場合は目的を実現できる」と断言する。介護の仕事の本質は「願いをかなえるパートナー」だという。「目的を達成するために一緒に壁を乗り越えていくのが、すごくおもしろい」