「0.5ミリ」の距離で寄り添う〝おしかけヘルパー〟

安藤桃子監督『0.5ミリ』
安藤桃子監督・脚本の映画『0.5ミリ』(2013年)の主人公、ヘルパーの山岸サワは、派遣先の家庭で「冥途の土産に、おじいちゃんと一晩添い寝してあげてほしい」という依頼に応じたことがきっかけで、職も住む場所も失ってしまう。衝撃的な事件を発端に、ハードボイルドで奇想天外な物語が展開していく。
駐輪場の自転車をパンクさせまくる元自動車整備士、女子高生の写真集を万引する元教師…。サワは孤独な老人たちの弱みを握り、〝おしかけヘルパー〟を始める。恐喝まがいの手口で、暴力的に家に上がり込むサワだが、ヘルパーとしてはすこぶる有能だ。
高齢夫婦宅ではさりげなく好みにあわせた食事を作り、認知機能を保つべく会話を交わし、夫には日々の〝お役目〟も持ってもらう。寝たきりで認知症の妻にも、車いすに座る練習や入浴介助を根気よく続ける。妻の足の爪を切ってやり、「マニキュアを買ってきてあげてもいいですか?」と夫に明るい表情で提案する。
強引に生活を支配するように見えて、心に寄り添って折り目正しい。最初は「イカれヘルパー!」と叫んだ老人も、彼女の親身で丁寧な仕事ぶりと、若いエネルギーに接して心がほどけ、別れに際しては、それぞれサワに「贈り物」を残してゆくのだ。
サワを演じるのは監督の妹、安藤サクラ。制作スタッフには、エグゼクティブ・プロデューサーとして俳優で映画監督の父・奥田瑛二、フードスタイリストとしてエッセイストの母・安藤和津が名を連ねる。まさにファミリー総出の作品だ。
原作は、監督が祖母の介護経験をもとに執筆した同名小説だが、その祖母を足かけ12年介護した母、安藤和津の著書『〝介護後〟うつ』(光文社)を読むと、安藤家の実体験に根差したエピソードが物語に数多く登場していることが分かる。
排泄がコントロールできず、本人のみならず、それを目の当たりにする家族も傷ついたこと。肉親を恥ずかしいと思ってしまった自分への後悔。介護に疲れ、ふと庭の木に誘われて死を思ってしまうこと。
「今日生まれる子も、明日死ぬじいさんも、みんな一緒に生きてるんだよ。お互いにちょっとだけ、目に見えない距離を歩み寄ってさ」
映画の終盤、こんなふうに述懐するサワ自身が抱える悲しみも明かされる。
ヘルパーの仕事も身内の介護も、限られた同じ時を生きる者同士が、向かい合う営みだ。生まれてきたからには、だれもが最期に向かって踏み出すしかない。その中でほんの0.5ミリ、微妙な心の距離を測りながら、人に寄り添う強さをサワは教えてくれる。(永井優子)