東京都が介護職現場のインターンシップ「かいチャレ」実施
介護の担い手の人材不足を解消し、「介護のしごと」に関心や興味を持つ人を増やそうと、東京都は今年度(令和4年度)、「TOKYOかいごチャレンジインターンシップ(愛称・かいチャレ)」事業を実施している。その狙いを改めて聞くとともに、現場の反応などを取材した。
◇就労の選択肢に介護の仕事を―
「かいチャレは、介護施設などで1~5日間、実際にその現場を体験するインターンシップ。その経験が直接介護職の就労につながるものではないですが、仕事を探す人たちに介護職が選択肢のひとつになってもらうことが狙い」と話すのは東京都福祉保健局介護保険課課長代理(介護人材担当)の寺田靖子さん。
昨年8月からインターンシップを進めており、これまでに都内の介護関連の266事業所が参加し、今年2月末までに約300人(のべ数)が直接事業所に行ったり、オンラインでの研修を受けたりするなどインターンシップを経験している。
「職探しをする際に、介護職を考えていなかった人たちにも、アピールすることがこの事業のコンセプト。今年度から開始した事業でもあり、介護の仕事を経験する人も参加事業所も増えていくことに期待したい」と寺田さんは語る。

◇地域で介護にトライする人を増やしたい
東京都新宿区を拠点に在宅介護を中心に事業を行う株式会社「K-WORKER」(佐藤修代表)は、インターンシップを受け入れている事業所のひとつ。実際に事業所での対面とオンラインでの事業説明を含め9人(3月17日時点)を受け入れた。
「地元の新宿区を中心に地域内で仕事として介護にトライする人材を増やしたいと考え、参加しました」というのは同社統括マネージャーの野津禎二さん。
都はインターンシップ参加者に、介護の現場に入るための事前の注意点を以下のように示している。
〇身だしなみ=アクセサリーや香水をつけない。頭髪は仕事の邪魔にならないようまとめる。清潔感のある身だしなみ。
〇守秘義務=利用者、顧客情報などは絶対に持ち出さない。公共の場で個人や職場を特定されるような会話をしない。
〇その他=事業所の規則に従う。担当者の指示に従う。困ったことがあったら自己判断せず、担当者に相談。積極的にインターンシップに参加し多くの経験を得る。
K-WORKERでも、動きやすい服装に加えて、派手な色みや短パン、スカート、サンダル履きはNGとしている。
K-WORKERの通所介護事業所での1日のプログラムは、午前中に2時間ほど「介護サービス」の基本を中心に、仕事の種類や高齢者の体と心の理解、キャリアアップなどの座学を行う。
具体的には、介護保険制度全般について、申請から認定までの流れや、要介護1~5と要支援1~2の認定者が利用できるサービスの種類などを学ぶ。
また、介護職が実際に仕事をする場については、在宅サービスと施設系サービスの違いを示し、食事介助や入浴介助などの身体介護、掃除や洗濯などの生活援助といった具体的仕事内容について学ぶ。
休憩をはさみ、午後は実際に通所介護事業所に行き、介護職スタッフと利用者によるレクレーションに参加。職員との質疑応答などを1時間半ほど行う。
「現在は、介護職員初任者研修の中にあるボディメカニクス(最小限の力で介護ができる介護技術)を取り入れ、身体的負担を軽減する方法などもプログラムに取り入れています」と、家族の介護や実際に介護職に就いた際に活用できる技術も説明するという。
指導に当たる野津さんは現在38歳。専門学校に通っていた19歳のころ、末期がんになった祖父を病院に見舞った際、「合気道の師範までやったおじいちゃんがすごくやせ細っていたのを見てショックを受けました。どんなに元気で体が丈夫な人-おじいちゃんは〝強い人〟と思っていたので、高齢になって体が衰えていくという事実に気づいたのです。それが介護に興味を持ったきっかけ。将来的に介護の仕事へのニーズは高くなるのははっきりしていたので志望しました」と振り返る。その後、洋服店でアルバイトをしながら旧ホームヘルパー2級の研修を終え、2006年にK-WORKERに入社した。
「最初のころ、まだ自分も人間的にできていない面もあり、利用者さんとのコミュニケーションがうまくいかず、『もう来ないでくれ』などと言われて、落ち込みました。その一方で、『来てくれて助かった、ありがとう』と言ってくれる方もいて、それが支えになり、きょうまで続けられました」という。
訪問介護を中心にキャリアを積んできた野津さんだが、「利用者の家族からも感謝されることが仕事への実感値を高めてくれる―、私の場合それがメリットでしょうか。介護職の業務、事業形態もさまざまなので、介護や介護の仕事に関心を持っている人は、ライフスタイルに応じた業種、事業所を知ってもらいたい。この仕事はコミュニケーション力7割、技術と知識が3割。利用者のニーズをとらえていくことが求められます」とアドバイスする。

◇自分に適しているのかどうか判断できたら
都内の特別養護老人ホームで2日間のインターンシップに参加した、都内の女性会社員Aさん(40代)は「将来、地方に住む親と同居して介護する可能性があり、介護知識を得たいと思っていました。介護施設は全国にあり、資格を得れば親が住む地方でも働ける、とも考えました。自分が介護職に適しているかどうかを判断したいと思いました」と参加動機を語る。
実際に、現場を経験してAさんは、「介護のスペシャリストである主任さんがよく教えてくれました。認知症などの疾患についてや、上手なコミュニケーションのとり方など必要な知識の座学もあっという間に終わりました。昼食の配膳準備、リネン交換、部屋掃除、体重測定、散歩の手伝いを実際にしました。高齢者個々の体力や健康状態を意識して、『利用者の支援をすることの大切さ』を感じました。インターンシップの2日間に失敗した時も心温まる言葉をもらい、緊張が和らぎました」と話してくれた。
そのうえで、Aさんは「介護をする上での細かな配慮や知識を心得て取り組んでいくことに、介護はやり甲斐のある仕事だと感じました。参加者に熱心に教えてくださったことに感謝したい。誇りを持って働いている担当の主任ら介護スタッフの姿を知ることができ、いい企画だと思いました」という。
◇参加者、事業者の満足度も高い
インターンシップでは、参加者全員にキャリアカウンセリングが実施され、その情報が受け入れ先にも伝えられ、双方にとって満足度の高いものとなることを目指す。オリエンテーションが事前に実施され、知識のない人の不安を解消するほか、1日あたり1事業所につき5000円の支援金も支払われる。
都福祉保健局の寺田さんは、「これまで実施してきて、参加者には仕事の選択肢が増えると実感されたし、受け入れ事業者には介護の仕事を考えてこなかった人にもアピールできた点で、満足度は高いと感じます。次年度(令和5年度)も事業を行う予定ですが、ハローワークとの連携を深めるなど、PRに力を入れて介護の仕事に関心を持つ人を増やしたい」と話している。