法人連携で若手を育成 京都市の「リガーレ」

2022/12/02

若い介護職をどう採用し、経験やスキルを育てていくか。福祉現場の人材育成は、質の高いサービス提供にも、本人のやりがい醸成にも不可欠。だが、小規模法人には人的、時間的な負担が重い。それを、複数法人の連携で乗り切ろうとする試みがある。

◆地域で最期まで

京都市の北、臨済宗大徳寺派の大本山「大徳寺」とほぼ背中合わせに、社会福祉法人「リガーレ 暮らしの架け橋」(同市北区)がある。

リガーレの特別養護老人ホーム(特養)で働く介護福祉士の坂口翔悟さん(30)は同志社大を卒業し、新卒で同法人に就職した。「高齢者が住んでいるその地域で、暮らし続けられるよう支援する、という方針に共感した」と話す。

実際、同法人の地域密着型総合ケアセンター「きたおおじ」には、特養以外に、地域の人が最期まで住み慣れた土地で暮らし続けるための介護サービスが整えられている。

要介護の高齢者らが、家から通ってきて日中を過ごしたり、泊まったり、訪問介護を受けたりできる「小規模多機能型居宅介護(小多機)」。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や小規模の有料ホーム(住宅型)もあり、家での暮らしが難しくなったら移り住んで、小多機のサービスを使うことができる。

新型コロナが流行する前にはサロンを開いて体操教室や喫茶も行っていた。地域の人が集まってくるから、サ高住などに移り住んでも、住民同士の変わらぬ付き合いを継続できる。

山田尋志理事長は、「こういう複合型のサービスが中学校区か小学校区に1カ所くらいあれば、心配なく年を取ることができる」と言葉に力をこめる。

手製の装飾がロビーに彩を添える

◆介護をめぐる思い込み

きたおおじには、ボランティアなど幅広い世代も集まる。坂口さんは、「介護職は閉ざされた空間で働いているように誤解されがちだが、そうではない。地域の人がやってきたり、利用者が出かけて行ったり、地域で一丸となって支えあっているところを見てほしい」という。

世の中には介護をめぐる〝思い込み〟があると感じる。例えば「賃金が低い」というのもその一つ。「私自身は、正規職員として就職したことが大きいかもしれないが、世間一般で考えられている額とそれほど違わないと思う」という。

実際、介護職の賃金は働き方、資格の有無、就職先によって様々だ。厚生労働省の令和3年度の調査(介護従事者処遇状況等調査)によると、特養の介護職の給与は、資格のない人で月に29万3060円(実働約164時間)。介護福祉士の資格があると35万6310円(実働約163時間)に上がる。

一方、単純比較はできないが、時給換算で働く非常勤介護職になると、労働時間は半分程度で、給与は月に平均11万3490円(実働約81時間)になる。介護職の賃金は、働き方次第で大きく異なることが分かる。

「介護職は全人的に人に関わる専門職」と山田尋志理事長(左)

◆横のつながりに活路

雇用する側には、待遇だけでなく、人材育成の課題もある。介護のスキルや他者への共感を育てるには研修や指導が不可欠だが、法人規模が小さいと育成の負担が大きい。

リガーレの山田理事長は思い立って、複数の社会福祉法人と横のつながりを密にし、一緒に研修や採用活動を始めた。今は、滋賀県や青森県など5法人と連携。合同で2人の専門スタッフを雇い、年70回に及ぶ研修、採用活動を行う。

厚生労働省もこうした活動を参考に、令和4年度には法人間で人材育成、災害時の連携、物資の共同購入、人口減少地域での合併などを後押しする「社会福祉連携推進法人」の枠組みをスタートした。

◆離職率半減も

法人同士の連携はスタッフにとっても、広い世界を見る機会になったようだ。

法人規模が小さいと採用が少なく、経験年数の近い同僚がいない。だが、複数法人が集まれば、年頃が合う仲間もできやすい。リガーレの坂口さんは「気安く話せる人がいると不安もないし、仕事の悩みも相談できる」と利点を挙げる。

実際、連携した法人の中には離職率が半減したところもあるという。

山田理事長は、「介護職は、長期にわたって暮らしに伴走し、全人的なかかわりをする専門職。地域の関係性が薄くなってきた社会では、なくてはならない仕事。ぜひパイオニアになってほしい」と話している。

ロビーには疫病封じのアマビエが

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