介護のこころは「あたたかなケア」 富山県魚津市 海望福祉会(後編)

2022/11/11

前回に続き、富山県魚津市の海望福祉会で、20~50歳代の男女4人の介護スタッフに集まってもらい、介護職に就いたきっかけや仕事に取り組む姿勢、ケア向上とくに看取りについての経験などを聞いた。

◇看取りケア 「追悼カンファレンス」で質向上

日本海に沈む夕日を一望できる特別養護老人ホーム「あんどの里」。デイサービスや障害者支援施設「ひびき」などを併設し、高齢者や障害者がなごやかに交流する姿も見られる。
02年4月に定員80人(現在も同じ)の開所から数年…、入所者の家族から次第に「あんどの里で最期まで看てほしい」という声が高まった。
最初の看取りを行ったのは08年度。それまでは終末期に入ると総合病院に移り、体調が安定すればあんどの里に戻るか、そうでない場合は療養型医療施設に転院していた。
12年度には施設内で看取った利用者は13人となり、ここ数年は年15~29人で推移している。
介護職は医療行為ができないが、生活する中で入所状態の変化をつかみ、施設の看護師や医師に連絡したり、その間際を判断して家族に連絡したりする。
「間に合わなかったら…、と最初は戸惑うスタッフもいました。しかし、毎日入所者と接しているだけに、よくタイミングを見てくれている。間に合わなかったということはほとんどない」と大﨑さんはいう。
あんどの里は、終末期に家族と過ごせる「家族室」を設けるなどの看取りケアが評価され、16年には富山県から「がんばる介護事業所表彰」を受けている。

若手からベテランまで、現場を知るスタッフに話を聞いた。

「やりたい仕事が何かを考えていたとき、特養に入っていた祖母に面会に行った際に見た職員さんの笑顔がきっかけ」というのは、建設資材などの営業職を14年つとめてから介護職に転じた金三津弘さん(50)だ。「笑顔を見せながらできる仕事だし、そうした仕事につけてよかったと思う」という。
母親が福祉関係の仕事で働き、自身も大学で福祉を学び、就職先には介護職を選んだ小西美菜(28)さんは「3年半やってみて、大変な面ももちろんある。でも、『ありがとう』のひと言でやりがいと人と関ることの大切さを実感する」と話す。
4人の中の最年少、中野萌々さん(21)は、「母が介護職に就いていて子どものころから施設に行くことがあった。編み物を教えてもらったり、楽しい印象が強かった」と仕事への親しみがあったという。しかし、「そんなことばかりではなく、出した食事を拒否されたりすることもあり、まだまだできないことも多い」と語る。
柴山友一さん(42)は大学の教育学部で学んだが、「教員は教育実習でやり切った感があり、実習中に経験した介護の仕事が楽しかったのでこの世界に入った」という。「当初は親に反対もされたが、エッセンシャルワーカーとして地域の役割を担う自負がある」と胸を張る。石川県内の施設で働いた際に看護師の妻と出会い、彼女の郷里・富山に移住した。

経験を語ってくれた中野さん、金三津さん、小西さん、柴山さん(左から)

◇その人らしい人生を全うする手助けを

看取りについても4人に聞いた。
入所早々の泊まり勤務の際に経験したという中野さんは「亡くなる人を見るのは初めてで、正直怖かった」と振り返りながら、「人の最期に立ち会うことができる介護職は”あたたかい仕事”だと思う」と話す。
中野さんは、今年5月に亡くなった最長寿の入所者のことが記憶に残るという。
「最期は病院に転院されたのですが、いつも私のことを気にかけてくれ、『また来てね』と、手を握られたのが忘れられません」。中野さんは実務経験を積みながら、介護福祉士資格取得を目指す。

職場のリーダーでもある金三津さんは「スタッフも年齢、経験の違いからさまざまな受け止め方、やり方がある。こういう風にやろう―と押し付けるのでなく、近い世代同士が経験を話しあうことで、スタッフが成長していると感じる。(入所者の最期が近づくなどで)泣くようなこともあるので、スタッフの心のケアを中心にサポートしている。その経験の先に、やらないといけないことが分かり、怖がることもなくなっていく」と指摘する。
小西さんは「その人らしい人生を全うするための手助けをさせてもらっている。それがありがたい」と話す。

あんどの里では、介護職はじめ、看護師、管理栄養士、理学療法士らが「追悼カンファレンス」を行い、一人ひとりのケースをトレースしている。
「看取った方への思い、自分のその時の気持ちを記録している。(入所者の)家族の理解、各職種との連携があってこそできること。人の死にかかわることの重要さを感じ、スタッフのみんなが立派だと思う。私は、職員のみんなに感謝し、ご自身のからだと人生をもって職員に教えてくださるご利用者の方々にも感謝していきたい」(大﨑さん)

看取りの経験を語ってもらうと、言葉につまり、涙ぐむ人もいた。介護職が心を大切にする仕事だ、と改めて感じた。

スタッフの笑顔が並ぶ写真が貼られたボードを前に

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