働きながら自立を目指し、支援する 富山県魚津市 海望福祉会(前編)

2022/11/04

蜃気楼や国天然記念物の埋没林で知られる富山県魚津市。特別養護老人ホームや障害者支援施設などを運営する社会福祉法人「海望福祉会」を訪ねた。富山湾を一望し、時には蜃気楼も見える立地にある。一方、山の中ではブドウやサツマイモを栽培し、就労困難者らを支援しながらスタッフが働いている―。次回の後編では、若手からベテランまでのスタッフに介護現場で働く生の声を聞く。

◇自立を目指し、畑で働く

「おおい、ちゃんと腰落として! せーのっ!」

サツマイモ畑に掛け声が響く。

魚津市内の海辺から5キロほど離れた山地に就労支援事業所「ぶどうの森」がある。畑では、畝を覆う「マルチ」と呼ばれる樹脂シートを取り除く作業が行われていた。それぞれがペアを組み、畝をはさんで力を合わせて黒色のマルチをはがす。これを行わないと、実ったサツマイモを収穫できないのだ。

ここは、障害があるなどして一般企業への就職が難しい人を対象に、雇用契約を結ばずに生産活動など就労訓練を行う事業所(就労継続支援B型)だ。周辺は稲作には向かない土地なため元々サツマイモ栽培が盛ん。「ぶどうの森」では利用者が農業を通じ、「一般就労」や「就労に必要な能力を育む」ことを目指す。

今年6月から作業に参加する濱田智成さん(55)は、父親が経営する鉄工所で30年近く溶接の仕事をしていた。しかし、職場の人間関係や仕事のストレスからアルコールに依存するようになったという。

「いろいろと失敗したり、肝臓を壊したりして仕事を辞め、断酒プログラムに参加。アルコールや薬物依存からの回復支援施設に入っていた…」

仲間と「マルチはがし」をする濱田さん(左)

長期にわたる苦闘の末、社会復帰を目指す中、雇用・就労支援を行う「ぶどうの森」と出合った。

濱田さんは1日4時間、週5日作業に参加しているが、「ここでサツマイモやブドウの栽培から収穫までを体験し、将来的には農業で食べていきたい。今はグループホームで生活しているが自立できるようになりたい」と語る。

職業指導員の澤田雄平さん(37)は、20代後半から高齢者介護の現場で10年近く働いてきたが、「ぶどうの森」が開設された3年前から就労支援の仕事に就いている。

「こちらでは20~50代と若い利用者が中心だが、介護現場では一人ひとりに向き合いながら、全体の動きを把握する経験が生きている」という。そのうえで、「男性、女性、作業ができる、できない―そうしたことを一度取り払い、どうしたらがんばってもらえるかを考えている」と語る。

具体的には、個々の利用者に「マンダラチャート」と呼ばれる目標設定シートを作成し、目指す目標や、その実現のために何を、どう行っていくかなどを記入する。

「自分にとってはゼロからのスタートだったが、畑仕事も介護も好きだし、自分に合った仕事だと思う」(澤田さん)

マンダラチャートを手にする澤田さん

海望福祉会では、後継者不足に悩む農業と就労意欲がある障害者らをつなぐ「農福連携」を進め、2021年12月にオープンした「ぶどうの森工房」では、畑で育てたサツマイモを使った干し芋、焼き芋も販売。地元のスイーツ店の協力を得て、今後はスイートポテトなども開発し、販売商品を増やすという。

同福祉会理事で総合施設長の大﨑雅子さん(56)は、「農福連携により、地域資源である1次産業の農業、2次産業の製造(加工)、3次産業の小売り―を掛け合わせた6次産業化でより可能性を広げたい」と語る。同福祉会では05年から障害者や生活困窮者、引きこもりなどで働く意欲がある人を支援する「ユニバーサル就労」も行い、同福祉会ではこれまでにのべ53人の就労を支援。このうち非常勤職員として雇用契約を結び、16人が就労している(22年10月現在)。

干し芋(ドライモ)が人気のぶどうの森工房

フォローすると、定期的に
\ケアするWebマガジン『ゆうゆうLife』の更新情報が届きます。/

Facebookページをフォロー
Share
LINE