介護はドラマチックの連続―いろ葉

2022/07/15

介護の仕事には、その瞬間のドラマがある。誰かの生活を支え、それらが積み重なり、組み合わさって地域の支えになっていく。「始まりはいつも、『あの人のため』だった」という事業所を、鹿児島県に訪ねた。

◆高齢者も子どもも青年も

鹿児島県薩摩半島の南部に位置する南九州市川辺町。その住宅地と農地が混在する、宅地の生垣が切れたところに1軒の民家が現れる。外壁の焼杉と白い塗装がモダンな印象だ。

介護事業所「ひらやまのお家」は、「小規模多機能型居宅介護」と呼ばれる介護サービス。要介護の高齢者らがやってきて1日を過ごしたり、泊まったり、ここから自宅に訪問介護に来てもらったりすることもできる。地域に密着して、できる限り最期まで家での暮らしを支えるサービスだ。

一軒家に人が集い、泊まり、ここからの訪問も受けられる「ひらやまのお家」

だが、ひらやまのお家に集うのは、介護の必要な高齢者だけではない。スタッフ、その子ども、その友達、不登校の少年…。さまざまな人の居場所になっている。

運営する株式会社「いろ葉」の代表、中迎(なかむかえ)聡子さん(43)は、「子どもたちには、ここが学校でも家でもない第3の居場所になれるといい」と言う。

◆介護も農業もタクシーも

南九州市の人口は約3万3千人。高齢化率は40%を超えた。いろ葉の包容力や柔軟性を頼ってか、地域特有の悩みも持ち込まれる。

「耕す人がいなくなった畑を使ってもらえないか」「誰も住まなくなった空き家を管理してもらえないか」―

請われるままに耕作放棄地を借り、農作物を植えたり、果樹を育てたりするようになった。広くて古い民家には手を入れて、定期的に風を入れる。その代わりにスタッフの研修施設や宿泊場所としても使う。

壁には何枚も畑のイラストが。野菜畑のほか、果樹の畑もある

天気を見て、ひらやまのお家を利用する高齢者らにも声をかけ、畑に出て種まきをしたり、もらってきたジャガイモを洗ったりする。

それぞれの「好き」や「得意」を生かして農作業をしていたが、地域産品を循環させるなどのために介護保険外の組織が必要になり、別会社を設けることに。今や有機農法の専門家も雇用し、「あったらいいな」の延長で介護タクシーを始めるなど、結果的に地元に多様な産業を起こしている。

高齢の犬もいる。ご相伴に預かれないかと目が訴える

最近は、町づくりのモデルとして紹介されることも多い。しかし、中迎さんは「地域のためというより、目の前にいる人にできることをしてきただけ。事業のすべてに『あの人のため』というエピソードがある。それがお互いさまになっていくといい」と自然体だ。

◆「めっちゃ面白い」

困りごとが持ち込まれるだけでなく、何となく人も集まり、事業を支えるスタッフには困らない。「ここ5、6年、人手不足になったことがない」と頼もしい。なにしろ、発見と感動に満ちた日々は「めっちゃ面白い」(中迎さん)のだ。

取材時、地域にコロナ患者はいなかった。マスクをつけるか否かは個々で考える

例えば、要介護の高齢者が、思いもつかぬことに心を寄せていることが分かる瞬間。中迎さんは、「そこだったの! と秘密のカギが開く。そこがドラマチック」と目を輝かせる。

普段は自分が誰なのか、どこにいるのかも分からない認知症の女性が突然、「今日は、いろ葉に行こう」と意思表示をする瞬間。「その言葉だけで生きていける。こんな素敵な日常が送れる仕事はない」。

中迎さんはこの近くで生まれて育った。好きなことを言い、好きなファッションでいて、田舎は嫌だと思いながら空気を読まずにやってきた。

でも、みんながもっと生きやすいといい、と感じる。「介護事業所って、こういうもの―」という世の中の固定観念は壊したい。

「年を取ると、心の中にある多種多様性がむきだしになる。そんな高齢者の多種多様が許容され、学校にいけない子供も生きていけるよう、地域のベースも多種多様にしていきたい」と話している。

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