地縁結び直し、老いを支え合う=戸山ハイツのあうねっと

2019/09/02

 高齢化が進んでも、希望が持てる街に―。高齢化率が50%を超える都営住宅、戸山ハイツアパート(東京都新宿区)。昨年から、住民によるコミュニティー活性化の取り組みが始まった。介護予防の運動をしたり、おしゃべりをしたり…。〝ご近所づきあい〟の復活で、老いを支え合う新たな地縁が生まれている。

■「友達が増えた」

50センチ角のマス状のネットが床に広げられた。童謡「どんぐりころころ」に合わせて、高齢者らがマスを踏まないように移動していく。
「上手だね」「がんばって」と声援が飛ぶ。ゴールして、スタッフとハイタッチ。とびきりの笑みがこぼれた。

7月下旬の土曜日。戸山ハイツ4号棟の一角で「カフェあうねっと」が開かれていた。毎週土曜日の午前中、住民が運動やおしゃべりをして過ごす。参加費は100円。主な対象は、介護保険で要支援1や2の認定を受けた人。参加者の平均年齢は80歳を超える。

住民組織「戸山未来・あうねっと」が、新宿区の事業を受託して実施する。地域全体で高齢者を支え、要介護になるのを防ぐのが目的だ。運営には東京家政大の学生も協力する。毎週参加する女性(77)は「同じ棟に住んでいても顔を合わせることは少ない。ここに来るようになって友達も増えました」と話す。

ネットを使った運動では、見守る人から「頑張って」と声がかかる

■資源を生かして

スタートの背景には、「都会の限界集落」とも称される戸山ハイツの高齢化がある。1960年代後半から建設されたアパート群は、都立戸山公園に隣接する広々とした敷地に立つ。

当初はファミリー層が多かったが、時代とともに高齢化が進展。新宿区の住民基本台帳によると、今年8月1日時点で、地元の戸山2丁目の高齢化率は56・3%。日本全体(28・1%)の2倍にもなった。

東京家政大などが平成27年に行った調査では、「老人ばかり」「頼れる人がそばにいない」など、孤独や不安を訴える声が目立った。一方、「ずっと住み続けたい」と地域を愛する声も多く、同29年に戸山未来・あうねっとが設立された。中心メンバーの1人、八幡多代子さん(65)は40年近く前、結婚を機に住み始めた。単身高齢者の増加が気がかりで、「ゆるくできるボランティア」と思って活動する。参加者もスタッフも「ご近所さん」だから、スーパーや道であいさつする人も増えた。「ささいな変化だけれど、街の雰囲気が明るくなったみたい」

この日は、パラリンピックの正式種目「ボッチャ」にみんなで挑戦した

■支え手側にも

顔見知りが増えれば、「さりげない見守り」にもなる。矢沢正春代表(64)は「参加者も、日常生活では支え手に回れる」と指摘する。毎週会うことで、お互いの体調を気遣うように。しばらく姿が見えなければ自然と連絡を取る。「スマートフォンの使い方を教え合ったりもする。メール送信ができると、熱中症や災害のときもSOSを出せる」。

家電の使い方を相談されて、代わりに家族を引っ張り出すケースも。老いても誰かの役には立てるし、それは生きる充実感にもつながる。行政や制度で対応できないちょっとしたニーズを拾えるのは住民自身だ。

矢沢代表は「戸山ハイツは助け合いの精神も色濃く残っている。住民の気持ちをうまくつなげたら、夢も希望も案外ある町を作れるんじゃないかな」と語る。自分たちが老いても、住みたい街にするのが目標だ。

おしゃべり、あいさつ、情報交換…。ささいなことが暮らしを豊かにし、地域に活力をもたらしていく。

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