今、できることを~皆が「当事者」のwithコロナ時代~<最終回>

2021/04/09

前回に続いて、富山県砺波市(となみし)でそれぞれの患者さんの「ものがたり」に寄り添い、支え見守る医療を実践する医師、佐藤伸彦先生をはじめとする皆さんの取り組みについてお話します。

◆まだ完成形ではない「ものがたりの街」はみんなで育てていく

地域の拠点病院で長年医師として活躍してきた佐藤先生が、最先端の医療で「命」を助けたはずの患者さんの「心」を最終的には救えなかった苦い経験から、取り組み始めた終末期に寄り添う医療。それによって、治らない病気と向き合う患者さんたちは我が家と同じような環境の中で、家族と普通にご飯を食べたり、外出したりとそれぞれのライフスタイルに合わせた日々を過ごすという希望を実現することができています。

佐藤先生は昨年の秋、砺波市に長年の夢だった「ものがたりの街」を、コロナ禍ではありましたが、オープンさせました。「人生の最期を住み慣れた地域で安心して暮らすこと」をコンセプトとした「街」には、診療所、訪問看護ステーション、住宅、薬局、古民家で使われていた蔵を再利用した図書室、菜園などがあり、それぞれこだわりの名前が付けられています。

例えば薬などの相談に乗ってくれる薬局は「薬舗棟」、図書室にあたる「修養棟」と呼ばれる建物は、本と出会いゆっくり過ごすスペースや市民講座などを開催する交流スペースになっています。また「ものがたり倶楽部ハウス棟」は介護職の方や看護師さんが運営するカフェになっていて、地域の方々もランチやお茶をしながら気軽に集まって相談もできる憩いの場所になっています。

このものがたりの街を手伝うために、ここ数年、私がさまざまな医療介護の勉強会で一緒に学んでいたベテランの介護職と薬剤師の2人の女性がなんと(!)埼玉から砺波市に移住してしまいました。お1人は一時的な移住ですが、そのフットワークの軽さとパワーを持ったお2人を本当に心から尊敬しています。

地域住民の方を対象に健康講座を開催する佐野さん。心と身体を元気にする1番の薬は“地域の繋がり”だと話します

埼玉を中心に市民の健康相談など地域活動を長年やってきた薬剤師の佐野幸子さんは、砺波でも地域の皆さんを対象に、月に一度健康講座などを開いたり、薬局でおじいちゃんやおばあちゃんの話に耳を傾けたり、また地元で活動する医療や介護職のみなさんとの交流も深めています。「地域を繋ぐ役割をしていきたい」と話す佐野さん。職種や地域の壁を超えて活躍する佐野さんの姿を観ていると、やはり大事なのは「人」だと痛感しています。

「行きたい!」と思いながらもコロナの影響でまだ訪問できていないのですが、もしかしたら、私も移住してしまうかも(笑)。地域の皆さん含め「みんなで一緒に育てていく」がものがたりの街のコンセプトなので、まだ完成形ではありません。ここで暮らす人たちが自分たちの手で夢や希望を形にしていくことで「街」の新しいものがたりが創られていくのでしょう。

北海道と埼玉などで長く介護施設の施設長を務めた経験を持つ介護職の片岡みどりさんも埼玉から移住した1人

◆「理想」は決して手の届かない非現実的なものではなく・・・

「町さん、理想と現実は違うんだよ」

20年にわたって医療や介護の現場を中心に取材するなかで、ときどき医師や介護職の方からこう言われることがあります。実際に現場に出向くと実感しますが、超高齢社会を迎える中で、求められる医療や介護も変化していて、多くの問題や課題が山積しています。
そして、それらは個人の力や想いだけでは解決できないこともよく分かっています。

 

(左)ランチを楽しめるカフェ「ものがたり倶楽部ハウス棟」(右上)木の温もりを感じる修養棟(右下)カフェの内部

それでも佐藤先生のように、理想を追求し続け仲間と共に実践している人たちが全国にいます。「理想とは現実へのアンチテーゼ(対立命題)」と佐藤先生は言っていました。少しわかりやすく言うと「現実の社会で、今はできていないことを可能にすることが『理想を叶える』ということであり、理想は決して手の届かない非現実的なものではない」ということだと考えています。厳しい現実を前にすると、ついできない言い訳や愚痴になりがちですが、言い訳をしていても現実を動かすことはできません。「理想と現実は違う」とあきらめていては、その現実からも取り残されることになると思います。「もし自分だったら」と母が倒れてからずっと問い続けてきましたが、佐藤先生も「これから求められる力は自ら問いを立てる能力」と指摘しています。

◆「地域包括ケア」は互いに支え合う全員参加のソーシャルワーク

このコラムも今回が最終回となりました。全員がコロナの当事者である“今”だからこそ、介護や看取りなどの問題を「もし自分だったら」という視点で考えて欲しいという想いを込めて書いてきました。コロナと向き合って2年目を迎えていますが、私達が自らに問わなければならないのは「感染者をゼロにするためにはどうすれば?」ではなく、「感染対策をしながら会いたい人に会えるようにするためにはどうしたら?」という問いではないでしょうか。ただし、この問いの答えは1人で出すことはできません。

国が提唱する地域包括ケアとは、「住み慣れた地域でその人らしく暮らせる社会を目指して職種の壁を超えて連携する」こと。この10年、全国各地の医療・介護職のみなさんが試行錯誤しながら実践している地域包括ケアの現場を取材し、本当にたくさんの専門職の声に耳を傾けてきました。みなさんが努力を積み重ねてきたのは、この100年に1度のパンデミックを乗り越えるためだったのではないでしょうか。地域包括ケアは、ただ医療と介護が連携するシステムではありません。その地域で暮らす全ての人が生き辛さを解消し、幸せに生きることができるよう、お互いにできることで支え合う全員参加のソーシャルワークです。

佐藤先生は、地域再生を試みるための「ものがたりの街」はコロナ禍と無縁のものではないとも話しています。安心して人と人が交流できる居場所をつくり、忘れてはいけないものをしっかりと次世代に繋げていくことがものがたりの街が目指す理想です。

困難な状況だからこそみんなの力で「できない」を「できる」に変えていきましょう。理想を現実のものにするために…。

=終わり

 

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≪プロフィール≫
まち・あせい 埼玉県出身。小学生の頃からアナウンサーに憧れ1995年に日本テレビにアナウンサーとして入社。その後、報道局に異動し、報道キャスター、厚生労働省担当記者としてがん医療、医療事故、難病などの医療・介護問題などを取材。また北京パラリンピックでは水泳メダリストの成田真由美選手を密着取材。“生涯現役アナウンサー”でいるために2011年にフリーに転身。脳障害のため車椅子の生活を送っていた母と過ごした10年の日々をまとめた著書「十年介護」を小学館文庫から出版。医療と介護を生涯のテーマに取材、啓発活動を続ける。(公式ブログ→http://ameblo.jp/machi-asei/

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