108歳、オンラインデビュー ~施設へICT支援がカギ~
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除された後も、介護の現場には緊張感が続く。外部からの立ち入りを制限するなかで、家族とのオンライン面会を開始した事業所もあるが、もともと「ふれあい」重視でICT(情報通信技術)に不慣れな業界。どう促進を図るか問われそうだ。

■子供世代も80代
小田原市の特別養護老人ホーム「潤生園」で暮らす遠藤静江さんは108歳。先月、人生で初めてオンライン会議システムを使って家族と面会した。
「昔は(各家庭に電話がなくて)、電話のある家から、『電話だよ』と呼びにきたもんだよ。長く生きていると、いろいろなことがあるね」と話す(オンラインで取材)。
同園は介護記録を電子化するなどICT化が進んでおり、スタッフは端末の扱いに抵抗感がない。入所者はもちろん不慣れだが、実施してみると、端末上で家族の顔が大きく映り、声も大きく聞こえるなど反応は上々。サポートさえあれば高齢者とICTの親和性は予想以上に高いことが分かった。
とはいえ、面会する〝子供〟世代も80代。遠藤さんと話した義理の娘(81)も「テレビ電話で話すなんて初めて。息子が助けてくれなければできなかった」。遠藤さんにとっては孫にあたる50代の息子に協力してもらい、面会に臨んだ。
同園の井口健一郎施設長は、「入所者が端末を通して、久しぶりに自分の家や庭の様子を見られる利点もあった。『この花は、私が植えたのよ』と会話が盛り上がり、これは使えると発見があった」という。
■課題はリテラシー向上
ほとんどの介護施設は、緊急事態宣言の解除後も、外部の立ち入りを制限し、緊張感のある生活を続けている。入所者が感染した場合のリスクが高く、海外ではクラスターが発生するケースが相次いだためだ。
面会は家族にとっては不可欠な営みだけに、厚生労働省もオンライン面会を「望ましい」とする事務連絡を発出。補正予算で介護事業所のICT導入支援を拡充した。
だが、介護現場はもともと、ICTリテラシーが今1つ。民間のアンケート結果からも、そうした姿が浮かび上がる。
一般社団法人「人とまちづくり研究所」が5月、介護の15団体を通して、約6000事業所を対象に行った調査では、コロナ下での利用者と家族のコミュニケーション手段で最も多かったのは「電話」で79%(複数回答。以下同じ)。
2位は「連絡ノート」(53%)で、以下、電子メール(38%)、SNS(28%)、法人内SNS(21%)、FAX(20%)が続き、テレビ電話・会議(17%)は最下位。今後の活用も、全体の40%が「予定なし」だった。
■「紙」から脱却支援を
調査に当たった同研究所代表理事で慶応大学教授の堀田聰子さんは、「介護福祉分野のICT活用はまだまだこれから。感染症や災害時などのリアルタイムの情報共有と応援体制の構築、柔軟な支援の展開、働き方改革の観点からも、リテラシー向上は今後の課題だ」とする。
介護の相談を受ける「地域包括支援センター」や、ケアマネジメント事業所も個人情報の取り扱いに課題があり、業務は依然「紙」ベース。新型コロナウイルスの感染が拡大する渦中でも、高齢者との面会は中止する一方、職場には通わざるを得なかった。
介護と福祉の分野は、育ち盛りの子供のいる女性の多い職場でもある。働きやすい環境づくりは喫緊の課題。これを機に、一層のICT化支援が求められそうだ。